2023年3月にCAREBOOK(ケアブック)を導入いただいた福岡県済生会二日市病院様。同じ地域の急性期病院と協力して導入を推進したことで、医療圏内のほとんどの病院がCAREBOOKを導入。効率的な転院調整と、後方連携のさらなる強化につながる結果となりました。導入後に起きた変化などについて、患者支援センター室長の楠窪様にお話を伺いました。
救急医療の提供体制を維持するため、後方連携を強化。転院調整の効率化を目的にCAREBOOKを導入
CAREBOOK導入前に抱えていた課題を教えてください。
当医療圏は全体の病院数が27、その内地域医療支援病院が当院を含めた3病院で、比較的コンパクトにまとまった医療圏であり、日頃から「顔が見える連携」はできていました。ですので、転院調整に対する大きな課題を感じていたわけではなかったんです。
ですが、コロナ禍の経験もあり、人口当たりの一般病床数が全国平均の7割弱である当医療圏において救急医療提供体制を維持するには、後方連携の強化が重要度を増していきました。それまでは、それぞれの担当者が進めている転院調整の進捗状況が可視化されておらず、調整を始めてから転院先が決定するまでにどれくらいの時間がかかっているのかを知りたくてもデータをとるのが難しい状況でした。後方連携を強化するにあたっても、データがなくては調整の効率化についての対策を考えることができないといった課題がありました。
CAREBOOK導入を検討いただいた背景は何だったのでしょうか?
転院調整に関するデータを取れないかと当院のシステム担当に相談したときに、CAREBOOKのことを教えてもらったんです。実際にCAREBOOKの詳しい説明やデモを見たときに、データの取得はもちろんですが、転院調整の8割が医療圏内での調整であることから、医療圏全体で同一のツールを使うことができれば、当院にとどまらず地域全体の効率化と連携の強化につながるのではないかと思い、当院でのCAREBOOKの導入と共に医療圏全体への導入拡大推進を図ることを検討しました。
最初は転院調整におけるデータの取得が目的だったのですね。
業務効率化の観点で、CAREBOOK活用のイメージはされていらっしゃいましたか?
当院でも電話や折り返しの多さや、繋がりにくさを感じてはいました。ですが、それは仕方のないことだと思っていて、解決しようとは思っていなかったんです。CAREBOOKでは転院調整をチャットで行えることを聞いたときには、本当に目から鱗が落ちるようでしたね。今の時代、それくらいできて当然だとは思うのですが、やはり電話とFAXでのコミュニケーションが根付いていたので、転院調整をチャットで行うという発想にはまったく及びませんでした。
連携病院に案内した際にも、「チャットで転院調整ができるところがいい」と、みなさん歓迎してくれました。
CAREBOOKを利用する9割が業務効率化を実感。同じサービスを地域全体で使うことで一体感も
CAREBOOKの効果はどう感じていらっしゃいますか?
CAREBOOKを導入してから、筑紫医療圏および隣接地域でCAREBOOKを利用して転院調整を行っている看護師やMSWにアンケート※を2回実施し、CAREBOOK導入の効果を測りました。アンケート結果では、「転院調整にかかる電話の回数が減った」と感じている人が9割以上、1回あたりの通話時間に関しても8割以上が「減った」と感じているようです。
また、「電話対応のための業務中断が減った」と感じている人は、1回目のアンケートで8割未満でしたが、導入病院数が増えた2回目のアンケートでは9割近くが減ったと回答しています。
自由意見においても「地域全体で同じサービスを使うことで一体感を感じる」「筑紫地域における連携共同体の意識が芽生えた」との意見もあり、地域連携の強化にも繋がっています。
※筑紫医療圏および隣接地域の病院でCAREBOOKを利用して転院調整業務に従事している看護師・MSWを対象に実施。1回目(2023年9月実施)回答数87、2回目(2024年2月実施)回答数90
反対に、アンケートによって感じられた課題があれば教えてください。
調整先が同じ病院であっても担当者によってCAREBOOK上での打診後に確認される内容に差があったり、逆に連携病院にとっては同じ病院内でも担当者によって提供してくれる情報に差があったりといった課題が浮き彫りになりました。CAREBOOK上の相談フォームは、ある程度情報の質の均一化は図られているのですが、打診後の追加聞き取りの電話が長かったり、チャットに多くの質問が羅列するケースも見られ、もう一歩進んだ情報伝達の標準化の必要性を感じています。
このアンケート結果は、福岡県における医療連携フォーラム「連携室の連携」で発表させていただいており、医療圏全体が課題に向けて解決していこうと活動しています。CARBOOKに記載された情報だけでは足りないこともあるので、例えば共通したADL表を使用するなども検討していきたいと思っています。
CAREBOOK導入をきっかけに連携病院の受け入れ体制にも変化
ほかに、CAREBOOK導入後に変化を感じていることはありますか?
地域全体でCAREBOOKを利用し始めたことで、連携病院にとっても今までの受け入れ体制を見直すきっかけとなっているようです。実は、受け入れ判定に必要な項目がかなり多い病院さんがあったのですが、CAREBOOKの導入をきっかけに必要項目を縮小する大きな議論が院内で交わされるなど、踏み込んだ変化も起きています。
このような変化が起きることで、患者さんは適切な時期に適切な医療機関へ移ることができますし、病院側としても急性期の治療を必要とする患者を取りこぼすことなく受け入れることができます。急性期病院にとっても、とてもありがたいことだと感じています。
筑紫医療圏では、かなりスムーズに医療圏全体でのCAREBOOK導入が進んだと感じています。
その理由はどのような点にあると感じられていますか?
当医療圏全体でCAREBOOKの導入が進んだのは、2つの急性期病院が連携して導入推進することができたからだと思います。医療圏内の急性期病院と協力し、連携病院への声掛けや合同説明会を行ってきました。その結果、最初にお声かけした病院はすべて導入していただき、以降も続々と導入が決定していきました。どこかの1つの病院だけが牽引するのではなく、急性期病院が連携しながら地域を巻き込むことが重要だと感じましたね。
最後に、CAREBOOKの導入を考えている方へメッセージをお願いいたします。
当院の救急搬送数や入院患者数は伸長しているにも関わらず、退院支援担当の人員は不足している状況です。今まで通り、転院調整の手段が電話とFAXのみであったなら、病床回転率を大きく低下させていたかもしれません。
人員不足というすぐに解決することが難しい局面の中で、面談やカンファレンスなどを行いつつ、ちょっとした隙間時間にもCAREBOOKでやり取りができるので、転院調整の滞りを防ぐことができています。病床を回転させることができているのは、やはり連携病院とともに医療圏全体でCAREBOOKを導入していたからだと感じています。