2022年10月からCAREBOOKをご利用いただいている京都第二赤十字病院様は、京都市内の後方連携病院だけではなく周囲の急性期病院とも協力し、CAREBOOKの運用体制の構築に努めておられます。今回は地域医療連携・入退院支援課・課長の田淵さまと係長でMSWの村松さまに、CAREBOOK導入前に抱えていた課題や効果的に活用していくための取り組みなどについて、お話を伺いました。
目指したのは業務効率化と転院調整日数の短縮
まずはじめに、ケアブックを知ったきっかけと導入しようと思った経緯をお伺いできますでしょうか。
村松さま
当院の転院件数は年々増加傾向にあって、毎月100~140件の転院調整をMSW9名で対応しています。急性期病院なので転院調整では複数打診が基本で、個人のPHSと固定電話7台(4回線)が鳴りっぱなしという状況でした。特に当院は三次救急ですので社会背景が複雑な患者様もおられ、後方連携病院に多くの情報を伝えるため、電話対応が長引くこともありました。
電話でのやりとりは時にニュアンスの違いで混乱をきたすことがあったり、自分宛ではない電話の伝言メモを残す必要があるなど、現場では転院調整業務の効率化が課題となっていました。
田淵さま
管理者目線では、転院調整日数の短縮という課題がありました。ただ患者さんは疾患・症状的に重症の方や社会背景の複雑な方の支援もある中で、病院からは在院日数削減が求められていました。対策を検討する中で、転院調整期間の短縮はMSWだけで改善できるものではなく、多職種で取り組む課題ではあるのですが、まずはMSWが最終調整を行う「転院依頼~実転院」までの期間短縮において何ができるかを考えていました。
そんな時に、大阪赤十字病院でケアブックを導入したことを耳にしました。さっそく、大阪赤十字病院の担当者に話を聞いたところ、ケアブックを導入することで、転院までにかかる日数を少しでも短縮することができるのではないかと感じたのです。現場のスタッフからすれば、調整日数の短縮を重視することに抵抗感を感じたと思うのですが、管理者としてはいかに調整日数を短縮して、病院の稼働率を上げていくかを考えなければならない立場でもあります。
ただ本当にケアブックの導入を受け入れてもらえるか不安もありました。しかし現場に提案したところ、現場からも「ぜひ導入しましょう」と業務効率化に向けて強い思いを確認できたので、"導入するかしないか"ではなく、"導入してからいかに運用体制を構築していくか"を考えるべきだと思い、導入に踏み切りました。
また、すでに隣接する大学病院がケアブックを導入していたので、地域で同じシステムを導入した方が、周辺の連携病院にとっても利便性が上がると考えたんです。なので、同じ課題を抱えていた京都第一赤十字病院にもお声掛けし、検討を重ね2つの赤十字病院で運用体制の構築に努めていきました。
継続して効果的な運用を行うために連携会を開催
ケアブック導入時、連携先の病院様の反応はいかがでしたでしょうか?
田淵さま
当初、連携病院側の反応はあまりいいものではありませんでした。おそらく、電話やFAX以外で転院調整をしたことがないので、イメージがまったくつかなかったこともあると思います。急性期病院側の一方的な都合の良いシステムなのでは?という印象も持たれたのではないでしょうか。
村松さま
クラウドを使用することで、「転院調整が事務的なものになる。ソーシャルワーカーらしい支援ができない」と、連携病院の方から導入をためらう声も聞かれました。そのため当院としてもケアブックを導入する趣旨を理解していただこうと導入説明会の際には各病院に電話で参加をお願いし、広報活動にも力を注ぎました。
また、急性期病院側からの一方的な打診とならないよう、いかに継続して効果的な運用ができるかを探っていきました。例えば連携先の病院の意見を聞いたり、ケアブックを導入している周辺の急性期病院と運用方法について意見を交わすなどの連携会を実施しました。連携会ではケアブック側の担当者にも参加していただき、活用方法をご説明いただいたり、ときには直接操作説明に行っていただくなど、協力してもらうことで連携病院の不安が徐々に解消されていったと感じます。
その結果、当初36だった導入病院数も、今では60病院となり、京都市内の転院調整はとてもやりやすい環境が整いました。
京都第二赤十字病院様ではMSWの皆さんで、ケアブックの運用方法を決めていると伺っております。どのような運用をされているのでしょうか?
村松さま
当院の転院調整は、複数のMSWが複数の調整を並行して行っています。そのため、連携病院側が混乱しないような運用について検討しました。
まず添付書類の1枚目にあたる診療情報提供書には、手書きで【MSWの苗字・患者イニシャル】を載せ、連携病院が添付書類と打診内容が照合しやすいようにしました。
また、打診した当日、もしくは翌日には添付書類(PDF化した患者の情報)をクラウドで送ること、患者の個人情報(患者氏名・ふりがな・生年月日・ケアブックID)をFAXで送ることを基本ルールとしています。
また以前より、「紹介状に既往歴が書かれていない」と連携先の病院からご指摘を受けていましたので、既往歴や患者情報、家族の意向などをできるだけ丁寧にケアブックに記載し、連携病院の方が状況を理解しやすいよう配慮しています。
田淵さま
MSWみんなで運用ルールを決めてくれたので、ほかの病院さんからも当院の情報は丁寧だと言っていただいてます。やっぱりケアブックのようなシステムを使うからこそ、事務的な調整にならないように特に気をつけなければいけません。ただシステムを導入するだけではなく、いかに継続して有効的な運用ができるかを考えていくことが重要だと改めて感じています。なので、今後も継続的に連携病院と意見交換を継続していきます。
転院件数が増える中でも調整日数の短縮に貢献
ケアブック導入後、どのような効果を感じていらっしゃいますか?
村松さま
連携病院の方には、「ケアブックは転院調整のツールが1つ増えただけのことであって、これまで通り電話してもらって構いません。」とお伝えしているのですが、やはり電話の件数はかなり減ったと感じます。私たちとしても急ぎのケースや、直接お伝えしたいことがある際には電話でやり取りしています。導入して1年がたちますが、スタッフ皆が従来の電話やFAXでのやりとりとケアブックそれぞれのメリットを理解して、上手に併用することができるようになりましたね。それと、チャットでの情報のやり取りは自分の隙間時間に返事ができますし、クラウド上に書類を添付することも簡単なので助かっています。
またケアブックでは各スタッフの転院調整内容をほかのスタッフも見ることができることが利点です。当院ではスタッフが休む際、休みのスタッフのケアブックを確認する担当者を決めています。そうすれば、急な調整を必要とするケースが放置されるということもありません。
田淵さま
ケアブックを導入したことで電話・FAX業務が大幅に減り、業務効率化としての成果は達成できています。そして、もう一つの導入目的であった転院調整日数についても成果が現れていて、昨年上半期に比べて転院調整件数は増加しているにも関わらず、1件あたり約2.5日の短縮ができています。
京都第二赤十字病院様は京都という土地柄、観光客なども多く遠方への転院調整も発生すると聞いています。ケアブックサーチはどのようにご活用いただいていますか?
村松さま
数としてはそこまで多くないのですが、他府県への転院調整は、季節を問わず一定数発生します。その際もケアブックサーチを活用すれば、土地勘のない他府県の病院情報を簡単に収集することができますし、患者様とタブレットを見ながら一緒に転院先を考えることもできます。ケアブック導入済みかどうかもわかるので、他府県への転院調整のハードルがこれまでより低くなりましたね。その点においても調整日数の短縮に繋がっていると感じます。
※ケアブックサーチとはCAREBOOKの機能の一つで、全国の医療介護施設をMAP上から検索することができる機能です。病床種別、ST在籍など機能ごとでの絞り込みも可能です。
業務効率化・転院調整日数の短縮のほか、感じられている効果はありますか?
田淵さま
全体的な転院件数も増えていますし、診療報酬が改定されるごとにMSWの専従・専任要件が増していて、MSWは専門職として多くのチーム医療活動に関わる業務が求められています。そのような中でも、ケアブックを導入してから1人あたりの残業時間を1か月あたり4時間弱削減することができています。転院調整業務を効率化できたことによって、本来のMSW「患者支援」の時間に費やすことができ、より患者様やご家族とのコミュニケーションの時間を取ることができています。
村松さま
残業時間が減ったことは、自分自身も感じています。もちろん、若手のスタッフの成長など様々な側面があったと思いますが、総じて皆、早く退勤できるようになっていますね。やはり残業時間が多いと、今の若い世代やこれからMSWを目指す方々がこの仕事を続けていくことは難しいと思います。ケアブックを使うことで、MSWが働きやすい環境を整えることができるのではないでしょうか。
MSWの皆様の働き方にも貢献でき、大変嬉しく思います。
最後に、今後ケアブックに期待することがあれば教えてください。
村松さま
マネジメント目線で言えば、分析や統計の機能が充実するといいなと思っています。MSWの業務は個々のやり方やスタンスもあるので管理が難しいんです。統計などは院内で独自のシステムを使っていますが、個々のMSWの調整期間を把握したり、この連携病院には年間何件の打診を行い、何件受けてもらっているか?打診してから何日目で転院できているのか?など、数字的な統計が一目でわかったりするとより便利なシステムになると思います。
田淵さま
本システムを運用させて頂いて1年になりますが、今では転院調整の7割以上ケアブックで調整しており当係での運用が定着してきました。今後は機能分化が進んでいくなかで、急性期病院における転院調整業務はより短期間にスムーズな調整が必要になってきます。出し側病院・受け側病院双方の現場目線での利便性の向上と管理者目線での導入効果が重要になってくると思われます。ケアブックを活用することで、現場の病院間同士の連携は今まで以上に構築されてきました。引き続き、患者様へ質の高い支援・調整を心がけて、連携先病院に繋いでいければと考えています。