電話・FAXに頼った転院調整業務に感じていた限界
まず、横浜市立大学附属病院様での導入のきっかけを教えてください。
友田さま:従前から電話とFAXという手段で転院調整業務を行うのは「古いな」「どうにかならないかな」という感覚をずっと持っていました。
そんなときに院内職員からCAREBOOKの話を聞いて、地域単位でさまざまな医療機関に導入されたら、イメージしていた転院調整におけるDXの推進が成されるのではと感じ、話を伺うことになりました。
従前の方法が「古い」と感じていたという部分ですが、どのような課題を感じられていたかを具体的に教えていただけますか?
友田さま:転院調整業務って、各病院に対して行っていることは同じことの繰り返しなんです。例えば10病院に打診連絡をするとしても、もちろん相手の病院の特徴によって多少伝えることは変わりますが、基本的には全部同じことを伝達します。いちソーシャルワーカーとしても、部門をまとめる管理者としても、反復業務にしばられてスタッフが余裕なく働いているところを見ると、なんとかここは改善できるんじゃないかな、という思いを持っていました。
そんなときにCAREBOOKを知っていただいて、これなら課題解決できるかもと思ってくださったのですね。
友田さま:はい。案内をいただいた当初はCAREBOOK上で書類を送信する機能がまだなかったのですが、自院で導入するタイミング(2021年6月)にはその機能が実装できるということを聞いていて、「これなら使える!」と思いました。
院内での導入準備とスタッフの反応
院内でのご利用準備にあたり、操作方法の習得や運用ルールの整備などはどのように行われましたか?
友田さま:操作そのものはまったく難しくないので、マニュアルを読み込むこともなく、3Sunnyさんによるデモを見て理解することができました。定型化されたフォーマットに患者さんの情報を入力して、打診先の病院を選択して、とシンプルに操作ができるので、操作をする際のつまづきは一切なかったです。
ありがとうございます。部署内での運用ルールを整備するにあたって工夫されたことなどはありますか?
友田さま:今までの打診方法とはオペレーションが異なるので、そこに対しては運用ルールを整備しました。
具体的には、CAREBOOKでは個人情報を取り扱わない中で、個人をどう特定するか、載せて良い情報・載せてはいけない情報は何か、スキャンする資料のダブルチェックをどうするか、などを部署内で確認し、手順書を作成しました。
実際にCAREBOOKを導入してからは、院内のスタッフのみなさんはどのような反応でしたか?
友田さま:すぐに使用し始めるスタッフと多少自重するスタッフに二分されました。後者は「従前のやり方の方が慣れている」という感覚だったのだと思います。とりあえず使ってみてと言い続けたら、「こんな楽なんですね、前と全然違います」という反応に変わってきました。今では本当に楽になりましたという声が聞かれています。
日々の業務のどのようなシーンでCAREBOOKが役に立っているのでしょうか?
友田さま:一番は、電話がつながらなくて転院調整が進まないという状況が、チャットを活用することで減ったことでしょうか。チャットの良いところは、自身の空き時間やお互い電話が繋がらない場面でも連絡することができることです。相手方としても時間が空いているときに返せるので、ご迷惑にならずにコミュニケーションがとれるようになっています。
また、チャットの利用を通じて記録が残るので、口頭で情報を伝えていた時と比べて、情報伝達のエラーが減らせます。転院打診をする側、受ける側の双方での業務改善につながっている実感がありますね。
CAREBOOK導入を通じた部署管理におけるメリット
続いて友田様が部署を管理される立場から、お話をお伺いしたいと思います。部署全体の業務の効率化という観点では、いかがでしょうか?
友田さま:従前の電話とFAXでやっていたときは1件の転院を成立させるのに、平均では2件強の打診しかできなかったのが、CAREBOOKの一括打診機能により平均4件強と約2倍に打診件数が増えました。CAREBOOKで打診する際は、2件目以降の打診は病院を選択するだけなので、数秒で追加打診ができます。スピーディーに効率よく各病院に打診連絡をできるのがCAREBOOKの強みですね。
導入の決め手となった書類添付機能については、実際にご利用されてみていかがでしょうか?
友田さま:こちらも2件目以降の書類送付の手間が減りました。電話とFAXで運用していたときは、例えば5病院に診療情報提供書をFAXで送る場合、これまでは5病院に対して送付状を用意して、5病院に対して送信先のダブルチェックをするという作業工程が必要でした。一方でCAREBOOKの場合は、一回診療情報提供書をスキャナで取り込んでしまえば、文書の送付に時間はかからず、送付状の作成の手間もないし、誤送信のリスクもほぼないというところではメリットの方が多いと思います。
管理者の立場としてメンバーの管理もしている中で、これまでと比べて変わったことはありますか?
友田さま:ソーシャルワーカーの仕事は転院調整業務だけではありませんが、大体どの急性期病院のソーシャルワーカーも業務の半分以上が転院調整を占めていると思います。CAREBOOKの画面を開くと、どのスタッフが何件くらいの転院調整をアクティブに行っているのかが一目で分かるので、誰にどのくらいの負荷がかかっているかということが見えやすくなりました。スタッフの業務把握や健康管理にも役立つように感じています。
CAREBOOK導入後のメンバーの転院相談の状況はいかがでしょうか。
友田さま:今まではソーシャルワーカー部門の中で、地域の医療機関リストを独自で作っていました。A病院は回復期が何床あって、リハビリのスタッフが何人いて、医療行為はこれができてこれはできない、など。
ベテランのスタッフはリストの中身が頭に入っている一方で、新人のスタッフはそのリストを確認しながら転院打診する病院を選んでいくので、新人の方が打診に時間がかかりやすい傾向がありました。
ただ、CAREBOOKは一括で各病院に打診ができるので、複数の病院に相談することに労力がまったくかかりません。そういう意味では経験の少ないソーシャルワーカーが担当した際にもスムーズに打診ができますし、経験値の差で転院先の選択肢がせばまってしまうということは防げていると思っています。
転院調整業務が、CAREBOOKの導入により経験年数に左右されることなく標準化されたということは言えると思います。
なるほど、新人のスタッフでも転院調整に入っていきやすい環境が生まれてきたということですね。他に感じられる変化はありますか?
友田さま:いまの話で言うともうひとつ、ベテランのスタッフほど、過去にこういう症例はお断りされたので今回は打診しないでおこうと、自身の経験から電話・FAXする選択肢を狭めがちです。
CAREBOOKで打診する場合は、打診連絡に関わる時間を大幅に削減できるので、気軽に多くの病院に打診することができます。実際にある症例の患者様の転院調整をする際に、今まで選択肢から外していた病院も含めて打診をしてみたところ、結果的にその病院で受け入れてもらえたことがありました。そうした結果は在院日数の短縮にも役立ちますし、患者さんやご家族からみても、より希望に近い病院が見つかりやすくなると思います。実際にそういった結果を生んだ例が複数、CAREBOOK導入以降にありましたので、転院調整業務の質の向上にも機能を発揮してくれていると思います。
CAREBOOKをきっかけにした地域医療機関との関係性構築
横浜市内のエリアでは横浜市立大学附属病院様が最初に開始された基幹急性期病院ということもあり、当時は後方病院のCAREBOOKの導入実績はまだありませんでしたが、周囲の病院様にはどのようにお声がけをして行ったのでしょうか?
友田さま:正直、立ち上げがうまくいくのかという心配や不安はありました。
後方病院へのお声がけについては、事前に上長にも相談したのですが、「後方病院が転院打診を受ける場合の利用料金は無料(*)だから、地域ぐるみでケアブックを一緒に使ってみようというスタンスであれば全然問題ないよ」と理解してもらえました。転院打診をする側も受ける側も、煩雑になっている転院調整の業務を良い方向に変えるチャンスかもしれないから、一緒にやりませんか?という声かけをしてスタートすることができました。
*CAREBOOKは打診を受ける機能に関しては無料で提供をしております(2022年2月時点)
CAREBOOKを導入した後方病院の方とコミュニケーションをとる中で、「お互い楽になりましたね」という会話や出来事はありましたか?
友田さま:後方病院の方が当院に訪問してくださった時や、私たちからご挨拶周りに行ったときに「CAREBOOKを導入してみて数か月経ちましたがどうですか?」という会話はよくするようにしています。
導入当初は、CAREBOOKについてどこまで一緒になって考えてくれるかな、行動してくれるかなという不安はすごくありましたが、実際に利用した後で話を聞いてみるとチャット機能がとても助かっているとポジティブな声が多いです。全然使えない、逆に大変になりました、といったネガティブな声は聞かないですね。
横浜市立大学付属病院様では「オンライン連携会」を開催して、地域の病院様に向けてCAREBOOKでの転院調整事例を紹介したり、やりとりの面でも改善していこうという取り組みをされています。このような連携会での各病院様の反応はいかがでしたか。
友田さま:連携会は開催してよかったと思います。この地域の中でCAREBOOKを導入したのが当院が初めてで、一番はじめに手を上げた病院として引っ張っぱらないといけないというプレッシャーもありましたが、連携会では、一緒にCAREBOOKというシステムをよりよくしていきましょうという観点で検討ができました。
例えば打診情報の中にどのエリアに住む患者様なのか書いてほしいという声が後方病院の方から聞けたりとか、そういう意見交換ができたことがすごく大きいと思います。
連携会をやったことで、一緒になってこのシステムをどううまく使っていこうかという機運が高まったと個人としては思っています。
コロナ禍において、新型コロナウイルス感染症の治療後にも地域の病院間で転院調整が必要となる患者様も増えているとお聞きしています。このようなケースの転院調整においても、CAREBOOKが役立ったことはありますか?
友田さま:はい。神奈川県の場合だと、県が新型コロナウイルス感染症で入院した患者様の転院先を見つけてくださるのですが、その受け入れ候補先病院が決まった後の調整は各病院間で実施しています。その受け入れ先病院がCAREBOOKを導入している場合には、患者様の基本情報や紹介状の送付、転院の日時調整はCAREBOOKでやりとりをすることができています。
CAREBOOKを利用した転院調整への期待
今後、CAREBOOKに期待することはありますか?
友田さま:いくつもありますね笑
一つ目は、転院先が決まった後の介護タクシーの手配までCAREBOOKでできると嬉しいです。もちろん介護タクシーは民間業者さんなので、移送費用の調整など運用する上での課題があると思いますが、介護タクシーの移送方法のところだけCAREBOOKから分断されてしまっているので、一元管理できると非常にありがたいです。
二つ目は、他の地域の病院では同業他社の別システムを使用していたりもするので、理想を言えば同じシステムでつながれると一番いいと思います。ある程度、医療圏でまとまっていればそれはそれでいいのかもしれないですけど。
三つ目は電子カルテとの連動ですね。将来的に紐づけできると、画像をCDに焼いてお渡ししているものも、CAREBOOKで情報をお渡しできます。
CAREBOOKはもっともっと伸びしろがあるし、価値を上げていくことができるサービスだと思います。
CAREBOOKを転院調整に用いる中で、地域における患者様の受け入れがどのように変化していくと良いと考えられていますか?
友田さま:そうですね、いま思い浮かべていたことは、一般的に転院調整が難しいとされる患者様の受け皿の拡大についてです。例えば、HIV感染症患者さんの転院調整は、昔も今も非常に難航します。他の感染症と比較しても、非常に感染しにくいというエビデンスが出ていたとしても、地域全体での知識のアップデートがされていないが故に、なかなか受け入れ先が拡大しません。
そんな中でCAREBOOKのような複数打診を容易にできるシステムがあると、例えばそのような患者さんの転院調整時には、多くの医療機関にまとめて打診することができます。打診先の病院が仮に受け入れ不可であったとしても、1病院だけでも、判定会議の場で印象に残り、今後の受け入れについて検討してもらえる機会が発生すること、すなわち他人事から自分事になっていくことに意味があると思っています。
CAREBOOKでさまざまな打診をしていく中で、後方病院様も含めて地域での患者様の受け入れについて検討の機会が生まれていくということですね。
友田さま:はい。今回お話しした事例もそうですが、今は受け入れは難しいけど今後は受け入れできるようにという動きに発展していけば良いと思っています。
ソーシャルワーカーの業界では、こうした社会資源を開拓するための動きを「ソーシャルアクション」と呼びます。今すぐには無理でも、患者さんが必要とする医療や介護、福祉サービスを受けられるような社会に変革していくために努力を継続しなければなりません。
CAREBOOKは、少ない労力と負担でそういったアクションが可能となるツールの一つになるのではないでしょうか。