タイトルを読んで「うわっICTって何?」と感じた方も、安心してください。訪問看護師だけでなく、医療従事者は実は「ITが苦手」という人が意外に多いのです。ICTとITは親戚のようなもの、と考えてください。

さらに「次世代型保健医療システム」という名称も難しく考えないでください。要するに「厚生労働省はパソコンを使って夢の医療を実現しようとしている」ということです。

ここでは、「訪問看護師なら利用者さまに最低限これくらいは説明できてほしい」という内容だけを取り上げて、日本一やさしく解説します。

◆4つめの武器で医療の進化スピードを格段に速くする

ITは「情報技術」、ICT情報通信技術と訳されますが、利用者さまには「ITは『コンピューターの技術』のことで、ICTは『コンピューター技術をどう活用するか』ということですよ」と説明してあげてください。

ではそのICTを使って何をしようとしているのかというと、「つくる」「つなげる」「ひらく」の3つです。つまり、ICTを使えば、

・新しい医療をつくることができる
・医療をつなげることができる
・医療をひらくことができる

というわけです。

ここで「ちょっと待って。これまでも新しい医療はたくさんつくられてきたし、病院と診療所はつながっているし、医療は広く国民にひらかれているんだけど」と感じるかもしれませんね。それは正解です。

しかし、新薬の開発も、薬の副作用の研究も、手術ロボットの導入も、地域住民の健康増進も、医療保険システムも、これまではすべて、医療従事者の自己研さんと経験と研究によって実現してきました。

つまり、医療がここまで発展してきたのは、「自己研さん」と「経験」と「研究」の3つの武器があったからです。ここに4つめの武器である「ICT」が加わると、医療の進化のスピードは飛躍的に上がるのです。

これが「ICTによって実現する次世代型保健医療システム」の考え方です。

それでは次に、ICTを使って「新しい医療をつくることができる」、「医療をつなげることができる」、「医療をひらくことができる」が実現した場合、どのような素晴らしい状態になるのかを見てみましょう。

◆ICTで新しい医療をつくるとどんな良いことがあるの?

ICTの得意技は、データを集めることです。1人の訪問看護師が暗記できるデータ量は限界がありますが、コンピューターにはほぼ無限にデータを詰め込むことができます。
さらにICTは、データを整理するという得意技も持っています。

例えば胃の部分切除手術を受けた胃がん患者が退院し、訪問看護サービスを利用して自宅療養を開始したとします。仮にこの状態の患者が、1カ月後にAまたはBまたはCまたはDの症状を起こすとします。ベテランの訪問看護師であれば、患者の年齢や既往歴や手術前の食生活などから、かなりの高い確率で「1カ月後はAになっている(またはBまたはCまたはDになっている)」と言い当てることができるでしょう。しかし人の力だけでは、「高確率に言い当てる」ことはできても、「100%言い当てる」ことはできないでしょう。

そこでICTを使って、国内のすべての「胃の部分切除後の患者の在宅におけるデータ」をコンピューターに入力して情報を整理させれば、「限りなく100%に近い確率」で「1カ月後はAになっている(またはBまたはCまたはDになっている)」と当てることができるようになるのです。

例えば、こんな世界になるかもしれません。

● 訪問看護師がスマホのアプリに利用者のデータを打ち込むと、1カ月後の利用者の状態や、訪問看護師の業務上の注意点などが画面に表示される。
● 訪問看護師が入力したデータは担当医師も閲覧でき、医師は訪問看護師のスマホに指示を送信することができる。


「胃の部分切除後のデータ」は、今後もさらに増えていくわけですから、それもどんどんICTに入力していけば、的中精度もどんどん上がっていくのです。
厚生労働省はこれを次世代型ヘルスケアマネジメントと呼んでいます。

◆ICTで医療をつなげることができるとどんな良いことが起きるの?

医療がICTを武器にするように、ICTにも武器があります。それはインターネットです。しかし、このインターネットというのもなかなか奥が深く、もし訪問看護師が高齢の利用者から「看護師さん看護師さん、インターネットなんなんじゃ?」と聞かれたら、なんと答えたらよいでしょうか。

その場合、「おばあちゃん、インターネットというのは『電子メール』とか『LINE』とか『グーグル』のことなんだよ」と答えてあげてください。そしてあなたのスマホやパソコンを見せてあげてください。電子メールとLINEとグーグルの共通点は、つなぐことです。「人と人をつなぐ」「人と情報をつなぐ」これがインターネットの「凄技(すごわざ)」です。なので、医療分野でも、ICTを使うと医療がつながるのです。

厚生労働省が「つなぎたい」と考えているのは、全国民の「健康」と「病気情報」と「介護情報」です。1人の人間の体内では、「健康」と「病気」と「介護」はつながっていますが、しかし情報としてはまったくつながっていないのです。

例えば「健康」な人が会社で仕事をして、休日はフィットネスクラブで運動をしていたとします。その人が「病気」になれば病院に行きますが、その病院では会社やフィットネスクラブが持っているその人の「健康情報」を入手できません。

またその人が「介護」を受けることになったときも、少しくらいなら病院は「病気情報」を介護施設に提供するかもしれませんが、カルテをすべて開示したり、CT画像を渡したりするわけではありません。

つまり、個人の「健康・病気・介護情報」は、まったくつながっていないのです。もちろん、情報漏洩やセキュリティの課題から、わざと「つなげない」という事情もあります。

しかし、健康情報と病気情報と介護情報をすべて把握して、健康指導や治療や介護ケアをすれば、効率的になり質も向上します。

厚生労働省は、「健康・病気・介護情報」が保健医療専門職に共有され、個人も自らにこの情報にアクセスできるようになることを目指しています。これを「PeOPLe」と名付けています。大文字と小文字が混ざっているのは、次の正式名称の略称だからです。

PeOPLe = Person centered Open Platform for wellbeing

直訳すると国民を中心に保健医療情報をどこでも活用できるオープンな情報基盤となります。

◆ICTで医療をひらくことができるとどんな良い状態になるの?

最後に「ICTで医療をひらく」について考えてみましょう。厚生労働省の資料では『たこつぼ化』から『安全かつ開かれた利用』へと説明されています。

「たこつぼ」は、タコがツボのように狭く閉鎖的な空間を好む習性を逆手にとったタコ漁の道具です。たこつぼを海底に置いておくと、タコが勝手に入ってくるので、簡単にタコが獲れるのです。

厚生労働省は、いまの医療機関は患者データを「囲い込んでいる(たこつぼ化している)」とみているのです。これはあまり良い状態とはいえません。

そこで、PeOPLeを使って患者の情報を社会で共有し、夢の医療を実現しようとしているのです。同省は「社会で共有すること」を「ひらく」と表現しているのです。

◆おわりに

きょうの話は医療のICT化のほんの触りの部分です。国や医療機関や医療関連企業は、ICTを活用して医療費の削減やがん治療、ロボット医療、遠隔医療を考えています。この話を聞くと「なるほど夢の医療だ」と感じられるでしょう。

明日の医療はICT抜きには語れないのです。

◆参考資料

「ICTを活用した『次世代型保健医療システム』の構築に向けて-データを『つくる』・『つなげる』・『ひらく』-2016年10月19日」(保健医療分野におけるICT活用推進懇談会提言、厚生労働省)